孫氏の“カバン持ち”だった三木雄信・ジャパン・フラッグシップ・プロジェクト社長に聞く
自分の代わりに孫社長にプレゼンしてくれるなんて、ソフトバンクの社員からしたらとてもありがたかったでしょうね。
三木:あいつは便利な奴だと思われていたでしょうね(笑)。いつも孫社長にひどく怒られているけど、骨惜しみをしないで大変な調整をやってくれる便利な奴だと。
ただ、こうして孫社長が納得する資料の作り方を身に付けたことが、今の仕事でも生きています。僕は今、いろんな企業の社外取締役や、内閣府原子力災害対策本部のアドバイザーなどを務めているのですが、仕事の3分の1は、資料作りのアドバイスです。著書ではこれまでにうまくいった資料の改善事例を紹介しています。
トイレから出てきた瞬間がチャンス
著書のタイトルにある「10秒」はどういうところからついたのですか。
三木:超多忙な孫社長をつかまえるチャンスは、会議を終えて部屋から出てきた時やトイレから出てきた時などに限られます。このわずかな時間を利用して孫社長にプレゼンすることを“居合い斬り”と呼んでいました。「すみません! ちょっとご説明したいことがあるのですが」と資料を手渡すと、孫社長は10秒ほどその資料を眺めて判断する。10秒という数字はそこから来ています。まさに1回1回が真剣勝負。資料という“刀”を研ぎ澄まして勝負を挑み、「勝った」「負けた」とやっていましたね。
どういう資料だと、孫社長は「ウン」と言ってくれるのでしょう。
三木:孫社長は、資料にはイメージデータを絶対つけるようにと言っていました。話を聞いてもらうためには、まずプレゼンする相手の興味を引くことが大切です。その点、グラフや写真といったビジュアルはやっぱり効果的です。最初に、「見たい」「聞きたい」と思わせられなければ、口でどんなにうまく説明しても、右から左へ聞き流されてしまいます。
特に数字は、孫社長を納得させるために必須です。「正しい数字を見ていれば正しい判断ができる」というのが孫社長の基本思想。問題を解決するためには、その本質を把握する必要がある。問題の本質を把握するために、数字による裏づけが記載された資料が不可欠なんです。ただ数字が入っていればいいというわけではなく、事業がうまくいっているのかどうかなど、その数字の意味をきちんと説明できることが大切です。